広島高等裁判所岡山支部 昭和28年(う)65号 判決
記録を調べてみるに、原審第一回公判期日において被告人は「当時「チクロパン」の注射をした直後で頭がふらふらしてどうして盗みをしたか判らないような有様であつた」旨供述し、弁護人は「犯行当時被告人は「チクロパン」の注射をしていて意識がなかつたとは申せませんが正常な精神状態ではなかつた」と弁論していることが明かである。
右被告人の供述及び弁護人の弁論を綜合すると、被告人が犯行当時心神粍弱乃至心神喪失の状態にあつた事実を主張したものと解するのが相当であつて、即ち刑事訴訟法第三三五条第二項に所謂法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の減免の理由となる事実が主張されたことに外ならないから、判決においてこれに対する判断を示さなければならないに拘らず原判決にはその判断が示されていないこと所論の如くである。されば原判決には判決に示すべき判断の遺脱した違法があり破棄を免れない。論旨は理由がある。